2026年、日本の暗号資産業界は大きな転換点を迎える。昨年12月、金融庁の「暗号資産制度に関するワーキング・グループ(WG)」は最終報告書を公表し、規制の根拠法をこれまでの資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移行する方針を正式に固めた。
報告書には、銀行・保険会社による暗号資産保有の容認や子会社による発行、IEOの投資制限、さらに責任準備金の積立て義務化などが盛り込まれている。
今月から始まる通常国会での法案提出、そして2027年の施行を見据え、自主規制団体である日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)はどう備えるのか。小田玄紀代表理事に、組織体制の強化や市場監視のあり方、分離課税への展望を聞いた。
2年間で倍以上の体制目指す
──金融審議会の報告書では、JVCEAにはガバナンスの強化から審査体制の刷新、不公正取引への対応、セキュリティ向上まで、極めて多岐にわたる役割が求められている。小田会長から見て、これらは想定内の範囲だったのか、それとも想定以上に「重い」要求だと感じているのか。
小田氏:暗号資産が金商法に移行することで、これまでよりも求められることは多くなるが、今回、業界に対して求められていることは基本的には対応しないといけないと考えている。これまで金融庁とも何度もすり合わせをしており、その過程で実務にも配慮いただいたうえで、ワーキング・グループの委員の意見を踏まえてまとまったものだからである。
今回報告書の中で記載されていることは、現状でもJVCEAの規則で定められていることもある。業界内には、現在の遵守状況に差があることも確かだが、金融庁はできないことばかり押し付けているわけではないと考えている。法律の施行までの期間は1年以上あるので、その間にキャッチアップが必要と考えている。
その間で「本気を出してやってもらう」ということだと捉えている。JVCEAとしても、現在の年間予算4億円、職員数32名という規模を、今後2年間で倍以上の体制としていき、抜本的に強化して取り組んでいく。
[第6回暗号資産制度に関するWG説明資料から]
──ガバナンスの強化が求められるが、具体的に交換業者の数社への集約や、業界再編が加速することも「市場の健全化」として容認していく考えか。
小田氏:2018年のコインチェック事件以降、この業界は「いずれ数社に集約される」と言われ続けてきたが、結果的にそうなっていない。
今回、 銀行・保険会社の子会社が「暗号資産の発行」を含めて暗号資産を業として行うことが容認されたことは驚異的であり、非常に大きなことだ。今後、既存の暗号資産交換業者を銀行や保険会社が購入する可能性は十分にある。
[暗号資産制度に関するワーキング・グループ報告書から]
一方で、2026年6月までに「暗号資産仲介業」も新設される。ライセンスを自前で持たずともサービスを提供できるチャンスが増えるため、数社に集約されるどころか、むしろ様々な業種から新規事業者が参入する可能性も十分にあると見ている。
不正取引への対応は
──不公正取引の監視について、日本取引所グループ(JPX)の取り組みを参考にするとある。具体的には、相場操縦を検知するアルゴリズムのようなシステム面を参考にするのか、それとも審査の「閾値(しきいち)」のような基準面を参考にするのか。
小田氏:その両方だが、特に参考にするのは後者だ。モデルとするのは、東京証券取引所そのものよりも上場株式におけるPTS(私設取引システム)市場だ。PTS市場では、各証券会社が不公正をチェックし、その内容を証券取引等監視委員会に共有してクロスチェックしている。
暗号資産でもこれと同様に、JVCEAが各会員企業から取引データを集約し、監視を行う体制を構築する。もしJVCEAの監査で不公正取引が特定され、会員企業側が検知できていなかった場合、それは会員企業の監査水準が低い、つまり経営管理態勢の不備を指摘されることにもつながる。
──システムの開発には多額のコストがかかることが予想される。実行性はあるか。
小田氏:これはこれからしっかりと取り組んでいかないといけないテーマではあるが、データフォーマットの共通化が重要で、そうすれば今後、暗号資産特有の市場監視の方法も段階的に整備を進めることも可能で、意外と合理的な内容に収まる可能性もあるかもしれない。
また、方法として主要な会社からカバーしていくことも考えられるかもしれない。特定の取引所で不正を検知されたユーザー(ブラックリスト)の情報を業界内で共有し、他社での取引も制限するような運用にも踏み込んでいく。
分離課税の対象銘柄
〈ブロックチェーン推進議員連盟で説明する小田会長|撮影:NADA NEWS編集部〉
──暗号資産の審査についても、「外部の第三者からなる中立的な委員会」の設置が注目されている。現在108銘柄(取材時点)が取り扱われているが、この新しい審査体制によって、新規銘柄の上場スピードが落ちるのではないかという懸念についてはどう考えるか。
小田氏:スピードが遅くなるとは思っていない。日本のIPOが年間70〜100件程度であるのに対し、暗号資産の新規上場は年間30件程度だ。この規模感であれば、専門家を交えた審査でも十分に回せる。
むしろ、この委員会ができることをプラスに捉えている。既存の暗号資産取扱に関する自主規制規則では取扱いを避けてきた銘柄について、今後、専門家を交えた委員会での議論でクリアになってくる部分もあると考えている。例えば、個人的には匿名コインなどはそういう範疇ではないかと考えている。
[従来の審査の流れ:第3回暗号資産制度に関するWG説明資料から]
──JVCEAの審査を通過した銘柄であることが、将来的な「分離課税」の適用要件になるという理解でよいか。
小田氏:その可能性は高い。暗号資産が「国民の資産形成に資する資産」となるためには、専門性・中立性を持った審査が不可欠だ。
我々も、JVCEAの審査を通過した銘柄を分離課税の対象とするよう、強く働きかけており、昨年公表された与党税制改正大綱にもその旨の記載がされている。
[令和8年度税制改正大綱]
責任準備金、スプレッド
──新たに義務化される「責任準備金」については、事業者への負担を懸念する声もある。
小田氏:責任準備金自体は、証券会社など他の金融事業者においては当然に求められている内容だ。市場が健全に成長していくために、金商法事業者であれば当然に求められるものの一つ、という理解がされるべきだと思っている。この制度の導入が日本の暗号資産市場の成長を阻むという一部の意見は、明らかに間違いだ。
ただし、報告書にも記載された通り、「事業に影響を生じないように」設計していく。責任準備金によって経営が立ち行かなくなったり、本来投資するべきセキュリティ対策がなおざりになったりすることは逆効果だからだ。この点は金融庁も共通のコンセンサスをもって頂いており、今回の記載に繋がっている。
──日本の取引所は「スプレッド(売買差額)が広い」という指摘が根強い。金商法移行で「最良執行方針」が求められるようになれば、いわゆる「販売所」中心のビジネスモデルは厳しくなるのではないか。
小田氏:顧客に対してベストな状況で提供すべきという「最良執行方針」は徹底される。
一方で、日本独自の市場特性も理解する必要がある。かつてコインベースやクラーケンのようなグローバル大手が「板取引(取引所)」中心で参入したが、多くが苦戦した。
日本の顧客は「手数料を個別に取られるのを嫌い、提示された価格で即座に売買できる安心感を求める」傾向が強いことも事実としてある。
実際に取引所の場合は顧客が希望する数量が全約定されない場合もあるが、販売所の場合は提示された価格での全約定を確定するものであり、そもそも取引所と販売所は性質が異なるものとなっている。
これが日本のマーケットの実態だ。取引所に到達できないような誘導は問題だが、両方の選択肢がある中で、案内を適切に行っているのであれば、それは一つの市場の形だ。
税制改正のタイミング
──今後のスケジュールとして、2027年の金商法施行に合わせて税制改正も実施されるのがベストシナリオか。
小田氏:それがベストなタイミングであることは間違いないが、タイミングについては事業者側また認定自主規制団体としての準備期間もあり、また、まだ国会にて金商法改正自体の審議もされていないことから、軽々な発言は慎むべきだと考えている。
今後、想定される流れとしては、今年の通常国会で改正金商法が成立した場合、そこから施行までに1年間かかるとして2027年の6月頃までに施行されることになると思われる。
昨年に公表された与党税制改正大綱においては、金商法施行を前提として暗号資産の個人所得税を改正するという記載になっており、税制改正のタイミングは金商法施行の翌年1月1日からとなっているので、2028年1月からの税制改正となる。
他方で、多くの暗号資産保有者の方からもっと早くするべきではないかという意見が寄せられていることも事実であり、また、暗号資産ETFの解禁タイミングもこれまでは税制改正と同じタイミングという議論が検討されていたが、金商法が2027年に施行される場合、暗号資産ETFの解禁が2028年まで待てるのかという現実的な議論もある。
認定自主規制団体の代表という立場としては、事業者およびJVCEAが早々に経営管理態勢の抜本的強化に努め、仮に税制改正の施行タイミングが国会審議を経て早くなることがあったとしても対応できるようにするということに尽きると考えている。
さらなる覚悟と態勢強化
──最後に。2025年11月のブロックチェーン議連では、木原会長から「投資家保護を深掘りし、業界としての覚悟を示してほしい」との発言があった。これに対し、小田代表はどう「覚悟」を示していくのか。
小田氏:ご指摘は極めて適切なものだと思う。業界は2018年の事案を経て「ネットベンチャー」から「金融機関としての矜持」を持つようになったが、経営管理態勢は未だ不十分だ。より広く国民に受け入れられるためには、さらなる覚悟と態勢強化が必要になる。
今回の金融審議会でも暗号資産業界に対して非常に厳しい意見や指摘があった。国内暗号資産口座数が1300万口座を超え、国民の10人に1人が暗号資産口座を持つ時代になったとはいえ、未だ多くの人が暗号資産に対して否定的・消極的な見解を有している事実を改めて認識することが出来た。
今回の金商法改正、また、その後の税制改正やETF、また、業界として要望を出しているレバレッジ倍率の改正を含めて実現していくにあたり、改めて業界としての謙虚さが必要であり、また、同時に市場の期待に対して応えていくための体制強化に努めていくべきと気を引き締めていきたい。
2017年の法改正(資金決済法改正)も、元々はマネーローンダリング対応の強化として規制強化として始まったものが、結果として日本市場の信頼に繋がり、マーケットの拡大を呼び込んだ。
今回も同様に、ちゃんとした規制を作ることで、結果的に健全なマーケットになっていくと、そう私は強く思っている。
|インタビュー:増田隆幸、栃山直樹
|撮影:多田圭佑
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