米商品先物取引委員会(CFTC)が、暗号資産(仮想通貨)の実物引渡しに関する従来のガイダンスを撤廃する。キャロライン・ファム(Caroline D. Pham)委員長代行の声明として、12月11日に発表された。
今回CFTCが撤回するのは、2020年に策定された、デジタル資産を対象とするリテール商品取引における実際の引渡しに関する最終解釈指針だ。このガイダンスは、商品取引法(CEA)に基づき、一定の条件を満たした場合に実物引渡しとして扱われ、先物取引と同等の規制対象から除外される例外規定について、暗号資産取引におけるCFTCの解釈を明確化する目的で策定されていた。
同指針では、暗号資産の実際の引渡しが成立するかどうかを判断する際の主要な要素として、まず、取引から28日以内に、顧客が暗号資産の全量について占有および管理権を確保し、特定の取引プラットフォームに依存せず自由に利用できる状態にあること、そして、28日経過後に、販売者やその関連者が当該暗号資産に対する法的権利や支配を一切保持していないことの2点が示されていた。
今回の発表でファム委員長代行は、撤回対象となったガイダンスについて、暗号資産市場の発展を踏まえると「時代遅れ」だと指摘。「暗号資産業界に不利益をもたらし、イノベーションを阻害する時代遅れで過度に複雑なガイダンスを撤廃することは、まさに本年度に政府が掲げた目標である」と述べた。
また今回の決定について、「断固たる行動によって安全な米国市場へのアクセスを促進し、米国市民を保護する真の進展が可能であることを示すものだ」との認識を示している。
ガイダンスの撤回により、CFTCは大統領直轄のデジタル資産市場作業部会(President’s Working Group on Digital Asset Markets)がまとめた報告書に盛り込まれた提言の実施に向けた取り組みを、引き続き進めやすくなるとした。今後は、更新版のガイダンスやFAQの策定が必要かどうかを検討するとともに、CFTC主導の取り組みである「クリプト・スプリント(Crypto Sprint)」を通じて、一般からの意見提出を呼びかけるとしている。
クリプト・スプリントは、大統領のデジタル資産市場作業部会報告書に示された推奨事項を具体化するための枠組みだ。CFTCはこれまで同取り組みの一環として、トークン化担保イニシアチブの開始や、特定の暗号資産をデリバティブ取引の証拠金として利用可能とするデジタル資産パイロットプログラムの立ち上げなどを進めてきた。
今回のガイダンス撤廃について、暗号資産インフラ企業 スタークウェア(StarkWare) の法務部長であるキャサリン・カークパトリック・ボス(Katherine Kirkpatrick Bos)氏は、Xへの投稿で、2020年のガイダンスが、実物引渡しとみなされる取引をCFTCの先物規制の対象外とする仕組みを明確化していたと説明した。
その結果、企業側は「先物」取引として扱われないよう暗号資産取引の構造を調整し、現物取引とデリバティブ取引の境界が形成されてきたとの見解を示している。さらに同氏は、同ガイダンスが、28日以内の決済要件を満たさない取引において、証拠金取引やレバレッジ取引を提供する際の制約要因になっていたとも指摘した。
今回のガイダンス撤廃についてボス氏は、取引設計の柔軟性が向上するとの評価を示す一方、「今回の発表は法律ではなく、あくまで指針に過ぎない」とも言及。指導部の交代によって、立法措置を伴わずに再び変更される可能性がある点には注意が必要だと強調している。
参考:発表・デジタル資産の実際の引渡しに関する最終解釈指針(CFTC)
画像:Reuters


