世界最大級の資産運用会社BlackRock(ブラックロック)は、2026年のグローバル投資環境を展望する中で、暗号資産(仮想通貨)を「周縁的な投機対象」ではなく、金融システムそのものを変え得る要素として位置づけている。その象徴が、ステーブルコインを起点とした「金融のトークン化」の進展だ。
ブラックロックは「2026 Global Outlook(2026年世界の展望)」と題されたレポートの中で、「暗号資産からプライベート市場に至る新たな資産クラスと、そのアクセス拡大は、金融システムの中核的な仕組みに影響を与えている」と指摘する。暗号資産はもはや単独の市場ではなく、既存の金融と接続しながら進化する段階に入った。
ステーブルコインは「ブリッジ」へと進化
暗号資産の中でも、ブラックロックが特に注目しているのがステーブルコインだ。
同社はステーブルコインを、「もともとは暗号資産ネイティブなツールだったが、現在はデジタル金融と伝統金融をつなぐブリッジへと進化している」と表現している。
実際、ステーブルコインの時価総額は2025年11月時点で2500億ドル(約39兆円、1ドル=156円換算)を超え、暗号資産取引の決済手段にとどまらず、クロスボーダー送金や決済インフラとしての利用が拡大している。
この成長は投機的なブームではなく、実務的な利用が広がっていることを反映している。
GENIUS法が示した「制度化」の第一歩
2025年に米国で成立したGENIUS(ジーニアス)法は、ステーブルコインにとって重要な転換点となった。この法律は、決済用ステーブルコインに対する初の包括的な連邦レベルでの規制枠組みを提供し、発行体を正式に規制下に置いた。
ブラックロックは、この点について次のように整理している。
「この法律は、ステーブルコイン発行体による利息支払いを禁じているが、『マーケティング・リワード』条項により、利回りに似たインセンティブの提供を可能にしている」
この仕組みは、銀行預金やマネーマーケットファンドと競合し得る性質を持つ。そのため、もし大規模に普及すれば、「銀行が経済全体に信用を供給する仕組みに意味のある影響を与える可能性がある」とブラックロックは警鐘を鳴らす。ただし、その影響の大きさについては「依然として不確実性が高い」とも付け加えている。
新興国と「デジタルドル化」の可能性
ブラックロックは、ステーブルコインの影響が先進国にとどまらない点にも注目している。
レポートでは、「新興国(EM)では、ステーブルコインが国内通貨の代替として使われる可能性がある」と指摘されている。
これは、インフレや通貨不安に悩む国々で、ドル連動型ステーブルコインが価値の保存手段や決済手段として使われるシナリオを意味する。結果として、「ドルへのアクセスを拡大する一方、国内通貨の使用が低下すれば、金融政策のコントロールが難しくなる」というジレンマが生じ得る。
ブラックロックは、この動きが結果的にドルの国際的地位を補強する側面を持つ可能性も示唆している。
トークン化金融への「控えめだが確かな一歩」
これらの変化を総合して、ブラックロックは次のように結論づけている。
「これらの動きは、デジタルドルが伝統的な金融チャネルと共存し、それらを再構築していく、急速に進化するトークン化金融システムへの、控えめだが意味のある一歩である」
重要なのは、同社が暗号資産を「革命的にすべてを置き換える存在」としてではなく、既存の金融仲介や政策伝達を変形させる存在として捉えている点だ。
暗号資産は金融の外側にある異物ではなく、内部に組み込まれ、制度と相互作用しながら影響力を拡大していく。
ブラックロックのレポートの直接的なテーマはAIやリスク資産全般だが、その中で暗号資産は市場の一部として確実に存在感を高めており、暗号資産がすでに、無視できない現実になったことを伝えている。
|文・編集:山口晶子
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