米証券取引委員会(SEC)のポール・アトキンス(Paul Atkins)委員長が、12月9日にワシントンD.C.で開催されたブロックチェーン協会(Blockchain Association)の政策サミットに登壇し、暗号資産(仮想資産)規制の新たな取り組みである「プロジェクト・クリプト(Project Crypto)」の進捗と今後の方針について語った。
アトキンス委員長は、同プロジェクトについて「就任前からヘスター・パース(Hester Peirce)委員を中心にタスクフォースが立ち上がり、すでに相当な準備が進んでいた」とした上で、「来年には、これまで蒔いてきた種が芽を出し、具体的な提案やルール策定が本格化する」と述べ、暗号資産分野の制度整備が次の段階に入るとの見通しを示した。
アトキンス委員長は、SECが現在検討しているトークン分類(token taxonomy)についても説明。暗号資産を「デジタルコモディティ(デジタル商品)」、「デジタルコレクティブル」、「デジタルツール」、「トークン化証券」の4つに分類する枠組みを示した。
また、この分類は確定したものではなく、今後の議論を踏まえて精緻化していくとした。
アトキンス委員長は、SECが主に管轄対象とするのは「トークン化証券」だとし、「デジタルコモディティ(デジタル商品)」、「デジタルコレクティブル」、「デジタルツール」についてはそれ自体が証券とみなされるべきではないとの考えを示した。
アトキンス委員長は、これらのカテゴリーに属するトークンに関するICO(イニシャル・コイン・オファリング)も、原則として証券取引ではなくSECの規制対象外とみなされるべきだと述べている。なおICOは新たに発行されるトークンを販売することで資金調達する方法だ。
「ICOはこの4つの領域すべてにまたがるが、そのうち3つの分野はCFTCの管轄だ。そこはCFTCに任せ、SECはトークン化証券にフォーカスする」と述べ、ICOのうちSECが直接監督すべき領域をトークン化証券に絞り込む姿勢を明確にした。
また、商品先物取引委員会(CFTC)との連携についても言及し、「縄張り争いは起こらない。デジタル資産規制はSECとCFTCが緊密に連携して進める」と強調した。
トークン化証券の活用について、アトキンス委員長は「パブリックチェーンと民間チェーンのどちらも選択肢になり得る」としつつ、分散型台帳技術(DLT)の本質は「相互運用性と自由な移動」にあると指摘。特定の構造に規制で押し込めるのではなく、市場とイノベーションに委ねる姿勢を示した。
この考え方は欧州の厳格な分類型規制とは対照的で、「欧州でも当初の厳格なトークン分類に見直しの動きが出ている」と述べ、米国型の柔軟なアプローチに自信を示した。
またアトキンス委員長は、ICO(新規トークン発行)を含むオンチェーンでの資金調達に関して「イノベーション特例(innovation exemption)」の導入を検討していることを改めて明らかにした。
アトキンス委員長は、12月2日に放送されたCNBCの「スクワーク・ボックス(Squawk Box)」のインタビューでも、暗号資産分野を対象とした「イノベーション特例」について言及していた。
委員長は、「トークン自体が証券なのではなく、問題となるのはトークンを取り巻く投資契約だ」との従来の見解を改めて強調。そのうえで「事業者がルールを順守している限り、突然の召喚状が届くようなことがないよう、規制の明確化を進める」と述べ、予見可能性の高いルール作りを進める考えを示した。
一方で、「暗号資産を装った詐欺には断固として対処する」とも述べ、健全な事業者と不正行為の明確な線引きを行う姿勢も強調した。
進行中の暗号資産市場構造法案(Market Structure Bill)についても、アトキンス委員長はトランプ政権の方針を支持する姿勢を明確にし、「SECとCFTCが要塞のように対立する状況は絶対に避けなければならない」と述べた。
また、暗号資産、証券、デリバティブを横断的に扱える「スーパーアプリ」のような市場構造を理想像として挙げ、将来的にはポートフォリオマージンなども含めた包括的な制度設計を目指す考えを示している。
アトキンス委員長は、業界との対話について「今のSECは、罠を仕掛けるような取締体制ではない。ぜひどんどん意見を聞かせてほしい」と強調。実務での課題や実装上の問題について、積極的に当局と意見交換を行うことを呼びかけた。
さらにアトキンス委員長は「技術は5年後、10年後にどうなっているか誰にも分からない。法律よりも、変更しやすいルール(規則)を軸に柔軟な制度設計を行うべきだ」とし、過度に固定化された規制への懸念も示している。
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